食品のトビラ

WHOの専門機関が人工甘味料「アスパルテーム」に発がん性の可能性示す

2023/07/28

WHOの専門機関が人工甘味料「アスパルテーム」に発がん性の可能性示す

7月14日に、清涼飲料水や食品などに幅広く使われる人工甘味料「アスパルテーム」について、WHO(世界保健機関)の傘下の専門機関IARC(国際がん研究機関)はあらためて「発がん性の可能性がある」という見解を示しました。この発表はNHKなどでも報じられ大きな関心を集めています。

今回の発表の対象となった、アスパルテームはスクラロース、アセスルファムKなどとともに化学合成により作られた人工甘味料で、食品衛生法における指定添加物に該当。アスパルテームは、アスパラギン酸とフェニルアラニンの2種類のアミノ酸を縮合させて製造されるアミノ酸系甘味料で、1965年に米国で開発され1980年代からさまざまな食品および飲料製品に広く使用されています。

砂糖の数百倍の甘味度を持っているため、カロリー低減製品で砂糖の代替甘味料として、清涼飲料やダイエット飲料、チューインガム、ゼラチン、アイスクリーム、ヨーグルトなどの乳製品、朝食用シリアル、歯磨き粉、咳止め薬やチュアブルビタミンなどの医薬品などの製品で、砂糖の甘味に近づけるため使用され、複数の人工甘味料を併用している場合も少なくありません。

今回の発表でIARCは、アスパルテームについて「発がん性の可能性がある」として、4段階の分類のうち、ガソリンによる排ガス、鉛、ある種の漬け物、ヒトパピローマウイルス、ドライクリーニングの作業などと同じ下から2番目のカテゴリー「2B」に指定したと発表しました。ちなみに発がん性の可能性が最も高い「1」にはタバコやアルコール、紫外線などが含まれています。

一方、WHOFAO(国際連合食糧農業機関)でつくる専門家会議JECFA(食品添加物専門家会議)は、アスパルテームの1日当たりの許容摂取量を体重1キロ当たり40ミリグラムとしていますが、今回の評価を受けて新たな変更は必要ないとしています。つまり今回の発表でリスクが高くなったとは判断していません。

また、IARCの担当者も「今回の発表は発がん性の可能性をより明確にするための研究者への呼びかけだ」と述べ、さらに研究が必要だとしています。

IARCとJECFAの二つの機関は、アスパルテームの摂取に関連する潜在的な発がん性の危険性やその他の健康リスクを評価するために、独立した、かつ補完的なレビューを実施。IARCがアスパルテームを評価するのは今回が初めてで、JECFAの評価は今回が3回目です。

IARCは、ヒトのがん(特に肝臓がんの一種である肝細胞がん)に関しての限られたエビデンスに基づいて、アスパルテームをヒトに対して発がん性の可能性があると分類しました。しかし、アスパルテームが他の種類のがんを引き起こす可能性を示す証拠は不十分であり、専門家もアスパルテームがどのようにがんに関与するのか正確には分かっていないとしています。また、アスパルテームが動物のがんと関係しているという証拠はごく限られているとしています。

アスパルテームについて米食品医薬品局(FDA)などは、一定の基準以内であれば安全に消費できると繰り返し説明しているます。アスパルテームのリスク評価を行ったJECFAは、WHOの基準を変更する必要はないとの見解を示しています。

発がん性が高いとする研究も昨年出ている

一方で、砂糖の代わりに使用される人工甘味料の摂取量が多い人では、がんのリスクが高まる可能性のあるという研究が2022年に発表されています。フランス国立保健医学研究所(INSERM)のCharlotte Debras氏らによるこの研究の詳細は、「PLOS Medicine」に2022  3 24 日に公開されました。

出典(https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1003950Debras C, et al.PLoS Med. 2022;19:e1003950.


その結果、人工甘味料の摂取量が多い人では人工甘味料を摂取していない人と比べると、がんと診断されるリスクが13%高いことがわかりました。人工甘味料の種類別に見ると、アスパルテームで15%、アセスルファムK13%のリスクが上昇していました。がん種別に見ると、乳がんリスクはアスパルテームの摂取量が多い人で22%、大腸がんなどの肥満関連のがんリスクは、全ての人工甘味料の摂取量が多い人で13%、アスパルテームの摂取量が多い人で15%上昇しているとされています。

また、同氏らは、他の研究で、人工甘味料の摂取量と心血管疾患リスクの関連を検討し、人工甘味料の摂取量が多い人は、人工甘味料を使用していない人に比べ、心血管疾患のリスクが高かったとの報告もしています。この結果は202297日のBMJ誌電子版に掲載されています。

出典

Artificial sweeteners and risk of cardiovascular diseases: results from the prospective NutriNet-Sante cohort」(https://www.bmj.com/content/378/bmj-2022-071204

このほかにも先行する研究として、脳卒中や認知症リスクが高まるという研究や腸内細菌叢が混乱を起こすなどの研究報告もあり、人工甘味料に関する安全性の担保が年々難しくなってきています。

今回のアステルパームに関する新たな評価で、WHOの担当者は発表に先立って行った12日の記者会見で「製品の摂取が自動的に健康への影響につながることを示すものではない」として、企業や消費者に冷静な対応を求めています。また、IARCの担当者も「今回の発表は発がん性の可能性をより明確にするための研究者への呼びかけだ」と述べ、さらに研究が必要だとしています。

アスパルテームについて、ヒトへの明確な発がん性は確認されていないとされていますが、長期的な摂取の影響や摂取量との関係もまだまだデータ不足に感じられます。ただし、一部の人は、アスパルテーム摂取後に頭痛やめまい、吐き気などの症状を訴えることがあります。これらの症状は、アスパルテームに対するアレルギー反応である可能性もあります。また、味覚障害や、認知症を高めるとする研究もあります。

ことが体内に直接取り込む食品に関することだけに、より慎重になるのは当然の対応だと思るのですが、情報が錯綜するときは特に対応が難しくなります。