日本人に不足がちな食物繊維は健康に深くかかわる第6の栄養素
2023/03/20
食物繊維という言葉をよく聞きます。イメージ的には糸状やスジ状のものを想像してしまいますが、実は形態はさまざまで、「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義される食物です。
この食物繊維は水溶性と不溶性の2種類に大別されます。
水溶性食物繊維は、水に溶けやすく、水に溶けるとゼリー状になります。主に海藻、こんにゃく、果物、里いも、大麦などに含まれ、小腸での栄養素の吸収の速度を緩やかにし、食後の血糖値の上昇を抑える働きがあります。また、コレステロールを吸着し体外に排出するため血中のコレステロール値を下げ、さらにナトリウムを排出するため高血圧を予防する効果もあります。
不溶性食物繊維は、主に豆類、穀類、海藻、野菜、きのこ類、甲殻類(エビやカニ)の殻などに含まれ、水分を吸収して便の容積を増やします。便が増えると、大腸が刺激され、排便がスムーズになります。また、有害物質を吸着させて、便と一緒に体の外に排出するため、腸をきれいにして大腸がんのリスクを減らしてくれます。
どちらの食物繊維も大腸内の細菌により発酵・分解され、ビフィズス菌などの善玉腸内細菌の餌になるため、善玉菌が増え、腸内環境が改善されます。さらに低カロリーで肥満の予防にもなるので、糖尿病、脂質異常症、高血圧、動脈硬化など、さまざまな生活習慣病の予防に効果があるといわれます。
糖尿病、循環器疾患やうつ病のリスクも軽減される
日本人を対象とした食物繊維の糖尿病への影響を調べたコホート研究でも、1~2ヵ月の血糖値を反映した指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、食物繊維が多いほどレベルが低くなることが示されています。(出典:https://nutritionj.biomedcentral.com/articles/10.1186/1475-2891-12-159)
また、『糖尿病治療のエッセンス2022年版』の食事指導のガイドラインでは「食物繊維を多く含む食品(野菜、海藻、きのこなど)を積極的にかつ、できるだけ食べ始めにとる」としています。ここでは食べる順番も重要視していることがわかります。
食物繊維は、体に絶対的に必要な栄養素ではないにもかかわらず、体の健康に深く関与する食品成分であるために、5大栄養素に次ぐ第6の栄養素ともいわれます。
国立がん研究センターによる多目的コホート研究では1995年から、国内に住む45~74歳の男女約8万7千人を2004年まで追跡した調査結果をもとに、食物繊維摂取量と循環器病発症との関連を調べた結果を論文発表しています。(出典:https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2792.html)。
この研究では食物繊維摂取量によって、5つの群に分けて、食物繊維摂取量が最も少ない群を基準に食物繊維の摂取量が多い群では、女性の循環器病発症のリスクが低いことがわかりました。食物繊維のタイプ別では、水溶性よりも不溶性食物繊維の方でより高い循環器病発症予防効果がみられました。また、水溶性よりも不溶性の方で、摂取量が多いグループで脳卒中発症リスクがより低いことがわかりました。
もう一つ注目したい研究は、食物繊維の摂取とうつ病および不安症との関連についての研究です。イラン・テヘラン医科大学のFaezeh Saghafian氏らは、食物繊維の摂取とうつ病および不安症との関連を明らかにするため2021年5月までに公表された研究18件の研究のメタ解析を実施。その結果、食物繊維の摂取が増加するほど、成人のうつ病リスクに対し保護的に作用することが示唆されました。(出典:https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/1028415X.2021.2020403)
食物繊維の摂取量が足りない日本人
厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、一日あたりの「目標量」(生活習慣病の発症予防を目的として、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量)は、18~64歳で男性21g以上、女性18g以上となっています。(出典:https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf)
ところが「日本人の平均食物繊維摂取量は、1950年頃には一人あたり一日20gを超えていましたが、穀類・いも類・豆類の摂取量の減少に伴い、減少傾向にあります。最近の報告によれば、平均摂取量は一日あたり14g前後と推定されています。」(厚生労働省 e-ヘルスネット)。目標量との開きを考えれば、健康のためには今よりも多くの食物繊維を摂取することが望ましい状況です。
食物繊維は、一般的には魚介類や肉類などの動物性食品にはほとんど含まれず、植物性食品に多く含まれます。タンパク質もとりつつ、食物繊維もしっかりとれるとすれば、やはり炭水化物を避け豆類、野菜類、果実類、きのこ類、藻類など食物繊維を多く含む食品の摂取を意識したほうがよさそうです。