医療のトビラ

食後の「血糖値スパイク」が健康寿命を大きく損なう

2023/03/13

食後の「血糖値スパイク」が健康寿命を大きく損なう

血糖値スパイクとは

健康診断などでよく耳にする血糖値はブドウ糖(グルコース)の血中濃度を示す数値です。通常はこの変動の波がゆるやかですが、食後の血糖値が急上昇と急降下が起きることがあります。この現象を「血糖値スパイク」といいます。スパイクは「とげ」を意味しますが、血糖値のグラフが「とげ」のようなギザギザな形になっていることからこう呼ばれます。この「血糖値スパイク」に注意することで糖尿病やさまざまな疾患の「芽」を摘むことができるのです。

そもそも血糖値はどうして上がったり下がったりするのでしょう。

ごはんやパン、麺など糖質を多く含むに炭水化物などを食べると、まず口の中の唾液で分解され、次に食道・胃を通って小腸でブドウ糖に分解、吸収されます。吸収されたブドウ糖は血液中に取り込まれますから、その結果、血中のブドウ糖濃度が上がります。

血中のブドウ糖濃度が上がると、膵臓でインスリンというホルモンが作られ、血管内に分泌されます。インスリンは血液中のブドウ糖を細胞に取り込むように働きます。インスリンの分泌を受けて、最初に肝臓でブドウ糖が蓄えられ、残りが筋肉や脂肪などに取り込まれます。これによって血中のブドウ糖濃度が下がります。

通常、血糖値は食後一時的に上昇しますが、2時間程度で元に戻ります。しかし、血糖値スパイクが起きる方の場合、食後血糖値が上昇してから2時間経過しても下がらないことが特徴です。厚生労働省によると、食後に血糖値が140mgdl以上あると食後高血糖(血糖値スパイク)だと判断しています。

(参考:厚生労働省 e-ヘルスネットhttps://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/

この血糖値スパイクには、インスリンの分泌が大きく関係しています。膵臓の老化、肥満などによってインスリンの分泌能力が衰えると、分泌量が減ったり、分泌のタイミングが遅くなったりします。すると、細胞がブドウ糖を取り込めず、血糖値の急激な上昇を招きます。さらに急上昇した血糖値を抑えるために、後からインスリンが大量に出てしまうと、今度は血糖値の急降下を招きます。

こうした血糖値の乱高下は血管に大きなダメージを与え、動脈硬化の原因なってしまいます。進行すれば心筋梗塞や脳卒中などを引き起こしかねません。最近では認知症になるリスクも指摘されています。

血糖値スパイクは1400万人に起きている!?

 血糖値スパイクに注意しなければならないのは、その発見がなかなか難しいことです。「血糖値スパイク」の状態になるひとは、「隠れ糖尿病」ともいわれています。血糖値スパイクが起きていても、空腹時血糖値が正常である場合も多く、なかなか気づかれにくいのです。

血糖値スパイクを起こしやすい人の特徴を上げるとすれば「炭水化物中心の食事をたくさん食べる」「食べる速度が早い」「運動不足」「血縁者に糖尿病の人がいる」などになります。

2016年に実施された厚生労働省の調査では、約2,000万人の糖尿病患者および予備群が存在すると推定されています。「血糖値スパイク」が生じている可能性がある日本人の数は推定1,400万人以上という試算もあります。(参考:国立国際医療研究センター糖尿病情報センター https://drc.ncgm.go.jp/index.html

実際に血糖値スパイクを起こしているかどうかを知るには、自分の血糖値がどのように変動しているかを把握することが大事になります。

最近では500円玉くらいの大きさのセンサーを腕に付け、24時間スマートフォンなどで皮下組織のブドウ糖濃度(血糖値に近似)を測定するという器具もあり、保険診療上の条件を満たせば医療機関での処方も可能です。また、ネット通販などで自費購入することもできます。きちんと医療機関で調べたいときは「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)」を受けることもできます。ブドウ糖液を飲む前と30分後・60分後・120分後の計4回採血し、それぞれの血糖値から血糖値の変動を調べます。こうした測定器や検査を活用して、食事や運動の前後で自分の血糖値の変化を確認することができます。

血糖値スパイクを避けるための「食事」と「運動」

 

では「血糖値スパイク」は予防することができないのか。これは食事と運動である程度の効果がありそうです。食事の際に、よく噛んでゆっくり食べたり、食べる順番を工夫したりすることで、小腸での炭水化物の吸収速度をゆるやかにすることが重要です。食物繊維を含むおかずと野菜を最初に食べることで、糖質の消化吸収がゆるやかになり、急激な血糖上昇を予防することができます。また、朝食を抜いた状態で昼食を食べると、血糖値が一気に上がるので、欠食は避けましょう。糖質を大量に含む炭水化物偏重の食事をやめるだけでも、かなり改善されます。血糖値の上がりやすさを示す指標「GI(グリセミック・インデックス)」を気にして食品を選ぶのもお勧めです。

運動も大切です。個人差はありますが、食後12時間後に運動を行なうと食後の血糖値や中性脂肪の値の上昇をゆるやかにすることができます。階段の上り下りやウォーキング程度の軽い運動で十分です。

加齢やその他の原因でインスリンの分泌が少なくなったり、遅くなったりで、「血糖値スパイク」を起こしやすくなるのは仕方のないことですが、糖尿病の罹患も心配されます。

糖尿病の途中段階ともいえる境界型糖尿病(糖尿病予備軍)では、10年以内に糖尿病を発症するといわれていています。糖尿病になる前の段階であれば、糖尿病を回避、あるいは発病を遅らせることができる可能性があります。「血糖値スパイク」を意識することでその後の健康寿命の長さが変わる可能性があるのです。